Sports Nutrition エネルギーはどのようにして体内に蓄積されるのか
 実際には,エネルギーは細胞内では主に糖質(グリコーゲンとして)と脂肪(トリグリセリドとして)の貯蔵形物質中の化学結合の形で存在している。このグリコーゲン,トリグリセリドはエネルギー供給の上でこれらを構成している単糖類や脂肪酸よりもコンパクトで効率良い形である。アミノ酸やタンパク質は通常はこのような貯蔵物質の形では存在していないが,必要になればタンパク質やペプチドがアミノ酸に分解されてその役割を果たす。

 ヒトのからだはデンプン,グリコーゲン,トリグリセリド(中性脂肪)を直接吸収することができないため,体内の組織に取り込まれる前に,消化という過程によってこれらをその構成成分に分解しなければならない。これらの構成成分は体内に入り,その代謝上の行方が決定される。必要とされればそのままの基本形で利用されるし,必要とされるまで貯蔵形に再合成されたりする。ヒトのからだは糖質(炭水化物)エネルギーをグリコーゲン中のグルコース単位としてしか貯蔵することはない。肝臓ははとんどの糖質をある形から別の形へと変換することができるので,グリコーゲン以外の種々多様な形で糖質を貯蔵する必要はないのである。

1.代謝回転(turnover)---エネルギー供給のための微調整機構
 エネルギーを供給するための栄養素の消化,吸収,同化,利用は完全にコントロールされていなければならない。からだは(例えば,食事後に)栄養素が体内のシステムに入ったことを認知すると,それによって適切な代謝応答(栄養素の合成や貯蔵)が始まる。グルコース(ブドウ糖),脂肪酸,アミノ酸などの栄養素の血中濃度は一定に保たれなければならない。濃度が減少すると,体内の貯蔵場所から栄養素が放出されて補充され(減成という異化過捏),濃度が増加すると,血中から栄養素が除かれて貯蔵物質として貯えられ緩衝される(貯蔵という同化過程)。
 それゆえ,血中のこれらの栄養素の量はこの両過程の進行の差し引きバランスにょって決定される。このように,栄養素は血中に常に存在し,必要に応じて,両過程の進行を別々に変化させたり,同時に逆方向へ変化させたりすることによって,急速に濃度を上昇させることができる。
 食後には,血中のグルコース,脂肪酸,アミノ酸の濃度は腸から吸収されるため有意に増加する。次にこれらの栄養素は血中から身体各部の細胞内へ移行し,適切な貯蔵物質に合成されることになる。
 同様に,体内に入ってくる栄養素が不足する場合,例えば長期間の食事制限のような場合や,例えばランニングや水泳というような運動を始めてエネルギー要求が増加した場合,からだはエネルギーの必要性を認知して,体内のエネルギー貯蔵物質をエネルギー供給のために動員する。この仕組が働かないと,栄養素の貯蔵組織からの血中への放出に比べて血中からの取り込み速度が速くなり,栄養素の血中濃度が急激に低下してしまう。摂食,絶食,運動などの諸条件が乱れると身体の機能に著しく損害を与えることにつながる場合がある。
 栄養素の貯蔵とエネルギー供給のためのこれらの分解および動員との間の微妙なバランスのことを“代謝回転(turnover)’’といい,それは肝臓,脳,内分泌系を含んだ多くの生理的応答によってコントロールされている。これによって,スポーツ実施中のからだに必要な高度の持久力筋肉パワーなどの様々な要求に見合ったエネルギー供給の微調整が可能になっている。
 次に糖質,脂肪,タンパク質が食事として摂取された後に体内でどうなっていくのか考えてみよう。

2.糖 質
 糖質(炭水化物)の吸収は主に小腸の中央部分(空腹)で行われ,単糖類が血中に取り込まれる。そのときの代謝状態に従って糖質は以下の四つの運命をたどる。

@肝細胞が正常に機能するためのエネルギー供給のため肝臓においてエネルギー源栄養素として燃焼されるか,別の合成物質の材料として利用される。
A当面のエネルギー供給が十分なときは糖質は肝臓にグリコーゲンとして貯蔵され,その後必要なときに利用される。
B糖質は体内の骨格筋のような別の組織へ血中グルコースとして運搬される。これらの組織は当面のエネルギー源としてグルコース(ブドウ糖)を利用するか、またはこれをグリコーゲンヘ変換している。
Cエネルギーの当面の要求に見合った供給があり,グリコーゲン貯蔵が十分に補充されている場合には,過剰の糖質は貯蔵エネルギーとして脂肪に変換される。糖質がいったんトリグリセリドに変換されると,グルコースに再変換されることはない。

 体内に糖質として貯蔵できるエネルギー量には限度がある。すぐに利用できる血中のグルコースとしてはおよそ50kcal(210kJ)しかない。肝臓ではグリコーゲンとしておよそ250〜300kcal(1,050〜1,250kJ)のエネルギーが貯蔵でき,筋中のグリコーゲンは一般的な成人男子の場合,400〜500kcal(1,700〜2,100kJ)のエネルギーを供給できる.これらの値を1日の標準的エネルギー消費量1,500〜4,000kcal(6.3〜16.8MJ)と比較してみると,身体にとって糖質は主要なエネルギー源でないことは明らかである。
 ところが運動中には大変に重要となる。糖質がエネルギー添物質としてどのように利用されるかについてのいくつかの重要な点を以下に示す。

@肝臓は脳のためにグルコースを供給しなければならない。中枢神経系はそれ自身ではグリコーゲンを貯蔵することができないため,エネルギーとしてグルコースが必ず必要となる。肝臓がグルコースを十分に供給できないと,脳へのエネルギー供給に支障が出る。
A血中のグルコースは,食後に血中への放出が増大したり,運動中に筋での取り込みが増大したりするさいに,その濃度に大きな変化があるにもかかわらず, 常に正常範囲内に維持されなければならない。
B肝グリコーゲンは別の組織にグルコースを供給するために分解されて血中に放出されるが,筋中のグリコーゲンは脳や他の筋にグルコースを供給するために動員されることはない。
Cグリコーゲン貯蔵は食事による継続的な糖質の摂取によってのみ維持することができる。十分な糖質の供給がないとそれは維持できず,タンパク質や脂肪からはグリコーゲンは合成することはできない。

3.タンパク質
 長い間,タンパク質は完全に消化されて遊離アミノ酸に分解され血中に吸収されると考えられてきた。しかしながら,今では,アミノ酸に加えて確かにある程度の量の小さなペプチドが,回腸と呼ばれる小腸の下部の部分に局在する特殊な輸送システムによって吸収されるということが明らかとなっている。
 ペプチドは吸収細胞に存在する酵素によって素早く加水分解されるので,アミノ酸だけが門脈血にみられるのである。肝臓に到達したアミノ酸は食事中に含まれていたものだけではない。食物を消化する酵素中のアミノ酸や小腸表面から脱落した細胞のタンバタ質もまた消化され,アミノ酸として吸収される。
 さらに,小腸の粘膜細胞はからだの要求に応じて,入ってきたアミノ酸を別の形に作り変えている。からだは必須アミノ酸を排泄せず,再利用するために回収しているということが重要な点である。
 このように,タンパク質の貯蔵形というものは存在しないが,身体は常に細胞内のアミノ酸プールからタンパク質を合成し,再び分解している。このタンパク質の合成と分解の繰り返しによってエネルギーは消費されるが,それは意味のないことではないと考えられている。
 タンパク質の合成量と分解量の相対的バランスによってタンパク質を体内に留めるか分解するかが決定される.合成と分解の量はそれぞれ独立して変化させることができるため,微妙に変化しうるスムーズなタンパク質代謝を可能にする。
 例えば,成長期には,合成を促進して分解を抑制することによって十分にタンパク質を体内に留めることができる。同様に,飢餓状態のときのようにアミノ酸がエネルギー生成のために利用されるときは,合成を抑制して分解を促進することによってそれを達成する。
 アミノ酸が肝臓に到達してからその後の行方は基本的に以下の3つである。
@アミノ酸は身体を構成する目的か,酵素,ホルモン,血漿タンパクを作るために肝臓内でタンパク質に合成される。
Aこれらは血中に放出されて,身体の別の組織で後に利用される。
B過剰なアミノ酸はエネルギー源として利用されうる。肝臓においてアミノ酸からグルコース(ブドウ糖)を合成する過程は糖新生の過程の一部を構成する。

 グルコースは同じ過程で乳酸やグリセロールからも合成される。
  アミノ酸のうちの窒素を含むアミノ基の部分は分離されなければならず(この過程を脱アミノと呼ぶ),残った炭素骨格部分はグルコースに変換される。これは,直接にエネルギー源として利用されるか,肝臓や筋のような別の組織においてグリコーゲンやトリグリセリドとして貯蔵される。
 脱アミノ後の利用されない含窒素部分には毒性があるため体内に蓄積されてはならない。そのため,尿素に変換され腎臓の働きで体外に排泄される。この過程では水分の排泄も必然的に伴うのでタンパク質の過剰な消費は水分バランスを混乱させることになる。
 体内にあるすべてのタンパク質がエネルギーとして利用されたら,28,000kcal(118MJ)ものエネルギーが得られるが,明らかにそういうことはありえない。
 なぜなら,タンパク質は体内にエネルギーを貯蔵する役割よりももっと重要な役割を担っているからである。エネルギー供給のためにたとえわずかでもタンパク質を消費すると,骨格節,心筋,平滑筋の分解や血漿タンパクの減少や免疫機能の障害を引き起こし,これらはヒトの健康に大きな悪影響を及ぼす。
 したがってこのょうな状態はできる限り避けなければならない。これらの機能は,最終手段としてタンパク質が消費されたとき,例えば,飢餓状態で他の貯蔵物質からのエネルギー供給が不足したときなどに,やむを得ず危機に直面することがあるだけである。

4.脂 肪
 トリグリセリド(中性脂肪)はグリセロールと三つの脂肪酸にまで完全に消化されるか,グリセロールに一つまたは二つ脂肪酸がついた状態にまで消化される。
 それらはアミノ酸と同様に,回腸の部分で主に吸収される。脂肪の吸収の方式は脂肪酸の大きさ(炭素鎖長)に依存している。

@炭素鎖長が10より少ない短鎖脂肪酸は直接吸収され,血中を運ばれて肝臓へ行く。肝臓に到達すると,これらの脂肪酸はエネルギー源として燃焼されるか,トリグリセリドに変換され肝臓に貯蔵されるか,タンパクに囲まれた形のリボタンパクとして体内の他の細胞に運澱される。

A長鎖脂肪酸は小腸の上皮細胞上でトリグリセリドに再び合成され,カイロミクロンと呼ばれる脂肪滴となってリンパ系に入る。このようにして,肝臓を通ることなしに循環系に入ることができる。
 それゆえ,脂肪はリボタンパクとカイロミクロンの二つの形で循環系に入る。しかし,身体各部の細胞に脂肪酸として取り込まれる前に,再びグリセロールと脂肪酸に分解されなければならない。そして,脂肪酸は細胞内に取り込まれ,糖代謝の生成物とともにトリグリセリドを合成する。
 タンパク質が常に合成と分解を繰り返しているのと同様に,トリグリセリドも一定量が合成され,分解されている。エネルギーが必要なときは脂肪組織から脂肪酸が動員されて血中に放出され,分解の促進と合成の抑制によってエネルギーが必要な組織へ供給される。エネルギーの要求を上回る供給があるときは反対の現象が起きる。
 すなわち,合成の促進と分解の抑制によって脂肪酸とグルコースはトリグリセリドとして貯蔵される。
 糖質(炭水化物)やタンパク質と違って,脂肪は理想的なエネルギー貯蔵物質である。脂肪は他の物質に比較してエネルギー密度が高く,1g当たりのエネルギー量は糖質,タンパク質の2倍以上であり,コンパクトな形で大量のエネルギーを貯蔵することができる。一般成人男子では体内の脂肪貯蔵量はエネルギー量にすると140,000kcal(590MJ)ほどになる。肥満者はさらに多くの量のエネルギーを貯蔵していることになる。

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