Sports Nutrition 運動中に,貯蔵エネルギー源物質を補給する
 長時間にわたってエネルギーの利用を高い水準に保とうとするとき,脱水と体内の貯蔵炭水化物の枯渇が主要な制限要因となる。運動中に液体のかたちで炭水化物(糖質)を補給することで疲労が軽くなると考えられており,市販されている多くのスポーツ栄養飲料はその考えに立って開発された。
 また,多くの会社は汗として失われる必須ミネラルを含んだ飲料は痙攣を予防できると宣伝している。そのため,電解質と炭水化物(通常はブドウ糖)の双方を含む“電解質補足飲料”も開発されている.

 @ 電 解 質
 運動中に水を飲む第一の目的は,発汗によって失われる体液を補うために水分を供給することにあるので,スポーツ飲料はどんなものでも運動中の吸収率が最大になるようにするべきであり,決してそれをいい加減にしていてはいけない。液体の胃からの排出と吸収の速度を左右する主要な因子の一つは溶液の浸透圧である。飲んだ後,液体の体内への移動を決定しているのは浸透圧である。

@飲料の濃度が濃過ぎた場合(ハイパートニックつまり高張液の場合),水分が体液から腸内へと移動して,飲んだ溶液を薄める。すなわち,水分は吸収されずにむしろ分泌されるのである。

A飲料の濃度が体液より低い場合(ハイポトニックつまり低張液の場合),腸から体液へと水分子が移動する。

 いろいろな電解質やブドウ糖(グルコース)を水に加えると,明らかに溶液の浸透圧は高くなる。各電解質は2個の粒子を作るのに対し,ブドウ糖のような非電解質の物質は1個の粒子しか作り出せない。
 溶液中にあるブドウ糖とナトリウムイオン,塩素イオンがほんの少量の場合は(低張液)腸一体液間の水分の移動を促進し,液体の摂取を高めることになるが,もっとエネルギーや電解質を供給しようとして炭水化物と電解質の量を大幅に増すと,水分の吸収はかえって損なわれるであろう。
 運動時に汗として失われる電解質を補う必要はほとんどないように思われる。また生理的メカニズムもよく分かっておらず,電解質溶液や塩の錠剤をとることによって痙攣が予防されたり,治ったりするという証拠は何もない。過剰な量の電解質をとると浸透圧が単に高まり,胃から腸への移送が遅れるだけである(極めて少量のナトリウム,塩素イオンが腸での液体吸収を促進するという証拠はいくらかあるが)。
 したがって、電解質を補足するような飲料を考慮に入れるよりは,むしろそれらの飲料は体内の貯蔵エネルギーをも補うためのものとして考えられるべきであろう。

 A 炭 水 化 物 (糖質)
 水に炭水化物を加えると,胃からの排出速度が遅くなる。それは,すべての糖には排出を遅らせる効果があるからである。これはその飲料に含まれているものがブドウ糖であれ,果糖であれ,砂糖であれ,同じである.それでも,非常に薄い溶液は最大に近い速度で胃から消えていくが,ブドウ糖濃度が例えば3〜5%(3〜5g/100m/)以上になると,その速度は極端に遅くなる。
 例えば,普通の水を400ml飲んだ場合,15分後には通常その60〜70%が胃から排出されるが,対照的に10%のショ糖溶液(市販の炭酸飲料と同じ程度)400mlでは,わずかにその5%が排出されるに過ぎない。
 炭水化物源としてこれらの飲料の単糖類を利用する場合の一つの限界は,そのように低い濃度では炭水化物の全量が体内に供給されたとしても,運動時に必要なエネルギー供給に十分な役割を果たせそうにないということである。 しかし,最近の研究が示すところでは、ある種の炭水化物は比較的速やかに腸に送り出される可能性がある。

a.グルコースポリマーとマルトデキストリン
 飲料の浸透圧は胃からの排出に影響する一つの重要な因子なので、エネルギーの量が同じなら、,溶液中の粒子の数の少ない炭水化物の方がそうでないものより吸収が速い。ブドウ糖(グルコース)1分子と、ブドウ糖(グルコース)が重合したかたちのグルコースポリマー1分子はどちらもそれぞれ1粒子をかたちづくるので、後者の方が同じ浸透圧でかなり多くの炭水化物とエネルギーを供給することができる。
 グルコースポリマー(グルコースシロップやマルトデキストリンと呼ばれる)はコーンスターチを部分的に分解して得られ,浸透圧が同じ単糖類と比べて、胃からの排出が遅くならずに10倍ものエネルギーを供給することができる。
 マルトデキストリンが含まれたスポーツ飲料をとったとき、それが持久性能力にどんな影響を及ぼすかについて調べた最近の研究がある.テキサスでの研究によれば,早歩き時(約45%VO2maX)に疲労困憊に至るまでの運動時間は、普通の水を飲んだときよりも11%以上延長している。また、マラソン程度のペース(あるいはそれより若干高く、85%VO2MAX)で疲労困憊に至るまでの走行時間がかなり延びることも、いくつかの研究グループによって報告されている。
 フィリピンのある研究グループによれば、被検者は水を飲まない場合56分間で疲労困憊に至ったが、水を飲んだときには78分間走行できたという(この40%の改善は、運動中に水をとることの重要さを示している)。しかし、被検者が水ではなくマルトデキストリンの溶液を飲んだ場合には102分間走行でき、水だけのときよりさらに30%以上改善したのである。しかし、他のどんな研究もこれほどの顕著なパフォーマンス改善を認めていないことに注意しておくべきであろう。
 持久性よりも運動の強度(仕事率)の方が重要な種目においてマルトデキストリン溶液のような飲料に価値があるかどうかは、まだはっきりしていない。しかし,試合時の特定のパフォーマンスを対象にして実験はなされていないものの、テキサスで行われた別の研究によれば、このような種目についてもパフォーマンスの向上につながる可能性が示されている。
 つまり、マルトデキストリン溶液を飲んだ場合、2時間の自転車エルゴメーターでの実験において、単なる水を飲んだ場合に比べて約12%多くの仕事を行うことができたのである(特に最後の10分間の仕事量が大きかった)。これらの研究で示されたパフォーマンスの改善は、飲料に含まれている炭水化物からのエネルギー供給が増えたことによるとされている。
 ブドウ糖として放出されたり,肝臓内にグリコーゲンとして蓄えられる。しかし,腸内の障害(下痢など)を起こすことなく受け入れることのできる果糖の量は極めてわずかなので,その利用にはおのずから限界がある。
 そこで,運動中に水分とブドウ糖をともにとろうとすると,ある程度お互いに邪魔し合うことになる.飲料に含まれるブドウ糖の量が増えるほど,吸収される水分は逆に少なくなり,水分を増やそうとするとブドウ糖がとりにくくなる。腸への炭水化物(糖質)の移行は,飲料中の炭水化物濃度には比較的影響されないょうである。
 薄い飲料も,非常に濃い飲料と同じだけの量の炭水化物を供給できるが水分はかなり多くなる。
 
実用的なアドバイスを以下に示しました。
@ 水分が必要なのか,それともエネルギーが必要なのか、まず第一に必要としている方を充足させること。
A 暑い日に試合をしたり,湿度の高い室内でトレーニングや試合をするときのように、水分補給の方が重要であれば少し薄めの飲料を選ぶ。(薄めて利用する。)
B 冬季スポーツや比較的軽めの運動を非常に長い時間,涼しい日に行う場合には,発汗による水分の脱失は少なく,脱水はあまり恐れる必要がない。そういう場合には,水分を犠牲にしてエネルギーをもっと補えるよう,飲料に含まれる炭水化物の量を増やす。
C 試合後あるいは試合の合間に(例えばトーナメントのときなど),炭水化物と水分とを補給するような飲料をとると,理論的には回復が促進される.まり,そうずることによって,1日或いは連日の試合に伴って貯蔵グリコーゲンが徐々に枯渇していくのが埋め合わせられる。

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